この世で最も、おぞましきもの。
其の姿、奇怪にして異様。
時に人を魅了し、
時に死に至らしめ、
時に、

狂わせる。







「根絶やしにするなら、まず元から、と、思ったんだけどな。」
かすかに口角を上げて、委員長は部屋の隅の人物に視線を向けた。
窓際に椅子を引っ張り、ぼうっとした目を外に投げかけているその人は、委員長の声に特に反応する事も無く窓枠に手をかけていた。
「残念ながら、菌は学校には無かった。」
大槻は失敗したよ。
告げると、相手はほんの一瞬だけこちらを見た。
だが、反応と言えば、それだけだった。
開かれた窓からは、夕方の光と、かすかに冷えた風が入り込み、そう広くも無い室内を掻きまわして、出ていく。
「向こうには向こうで、助け手が居るらしい。」
また、一瞬。
「そろそろ、手を貸してくれないか?」
今度は目だけ。
居心地の悪い思いをしつつ、委員長は穏やかにきりだした。

――よく、大槻はこんな奴と交流がもてるものだ。

心中を悟られない様に、やや声を大きくして。
「君の力を貸して欲しい。」
若干オーバーアクションだったか。
いいや、そんな事、解りはしないだろう。
太陽が雲に飲まれたのか、やや、日が翳った。
「聞いているのか?」
少し、間を置いてみた。
やはり、返答は無い。
委員長は、舌打ちをした。
奴に力を借りよう、というのは大槻の薦めであった。
副委員長もそれには賛同していた。
だが、彼だけは、賛成しかねていた。
何故ならば、
「力、なぁ?」
ふいに顔を上げて欠伸一つ。
窓辺の人物は薄暗い中、関節を一箇所づつ伸ばすかのように、立ち上がった。
逆光で、表情はよく見えない。
只、恐らくは笑っているのだろうと、思った。
正直、苛立った。
だが、飼育栽培委員会と張り合うには力が必要だ。
委員長は、三度口を開いた。
「ああ、やつらと――――」
「貸してやるよ。」
いくらでも、な。
更に声を発しようと動かしかけた咽喉を止めて、委員長は動きをとめた。
瞬きさえも。

――だから、嫌なんだ。

こいつは。


――――得体が知れないから。


狂ってる。
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