銀河は、茸の世話をしている委員達を何気なさを装って観察していた。
委員達は茸に異常がないか丁寧に調べている。
このチェックはいつも行うものだが、今日のチェックは人数、時間、そして念の入れ方が違っていた。
理由は、昨日から今日にかけての茸撲滅委員会の暴挙。
それはこの、我らが温室にも及んでいた。
銀河の眉間に皺が寄る。
幸い大した被害は出てないようだ。茸撲滅委員会は、今回本当に菌だけを狙ったらしい。
彼ららしくないと言えば、彼ららしくない。隙あらば撲滅、をスローガンにしている彼らが、目の前の茸を無視するなんて。
しかも――。
「何か気にかかることでも?」
副委員長が銀河に声をかけた。
ちらっとそちらを見、軽くかぶりを振って何でもないことを伝えると、副委員長は「そうですか」と言って茸の世話に戻る。
「気にかかることと言えば、銀河くん」
三原が銀河の隣りに立った。普段は委員長と言うことで自分に対して敬語を使っている生真面目だが、二人きりで話すとなると途端にくだける。なら敬語を使わなくても、と思い以前理由を聞いてみたところ、答えは「何となく」だった。三原はどうも掴みにくい。
隣りの三原を見てそんなことを思う。でも、どうした訳か敬遠したいとは思わない。
「何?」
眉間の皺を意図的に伸ばし、三原の言葉の続きを催促する。
「うん。何で茸撲委員会の人は落とし穴に落ちていないのかなって思って」
銀河が一旦弛めた眉をぎゅっと寄せた。
それは、銀河の眉間の皺の理由だったのだ。
「茸撲委員会が生徒会の一人を味方に入れているのは知ってるけど……」
「――僕らが味方にしている人以外に、落とし穴を完全に見切れる人間がいるはずない、だろ?」
「そう、それ」
うーんと唸り、銀河と同じように眉根を寄せる。
「生徒会メンバーは結構何でもやってのける人達だからできないとは言い切れないかもだけど、どうも気になるんだよね」
銀河も同じことを考えていた。
生徒会メンバーではないとすれば、誰が。
「考えられるのは、うっかり落とし穴マップを落とした人がいる、か……」
三原は、いつもの気が抜けた顔で委員達を見渡した。
委員達は茸を甲斐甲斐しく世話している。
「……いるかもしれないね」
三原の声が小さくなる。銀河にだけ聞こえるように。
「……ああ」
何が、と問わなくても銀河には充分過ぎるほど分かる。
「でも誰が、までは分からないなー。銀河くんは絶対違いそうだけど」
三原は首を傾げながら、委員達をよく見ようとするかのように何歩か前に出る。
さっきまでの緊迫した雰囲気を全く感じさせない三原の口調に、銀河も緊張を解き、三原の背中を見つめる。
「そう? 僕は少し目星をつけてるよ」
「え?」
三原が振り返る。
「誰だと思う?」
冗談めかして問いかける。しかし、本当に答えを求めているわけではない。
「ええ?」
分からないと言っていたのに、それでも律儀に答えを探している三原に、銀河は微笑んだ。
「分からないなー。誰?」
「……キミ」
普通の会話のようにさり気なく、銀河は言った。
三原が僅かに瞠目する。銀河は三原に背を向けてそのまま歩き出した。
三原が追いかけてこないのは、それが本当だからか。それともショックで動けないのか。
今は分からない。だが。
「いずれ暴いてやるさ」
自信に満ちた声は、自分に言い聞かせる為なのだろう。吐息に近い、小さな声だった。
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