「やはり、あの雑木林で茸を栽培するのは危険です」
飼育栽培委員会緊急会議の中で、委員の一人が声を張り上げた。
皆、誰かがそれを言うと思っていたのか苦渋の色を浮かべた顔を見せる。
「菌床栽培に全て切り替え、茸撲滅委員会の手が届かないよう厳重な警備をすべきではないでしょうか」
毅然と言い切り、その委員はすとんと座る。
その委員に、銀河は微笑みかけた。――通称、白い悪魔の笑み。いや、そんなことはどうでもいい。
その委員は我知らず身震いする。
「襲撃された雑木林も、充分な警備だったよね? それを突破した奴らをまだ出し抜ける警備を、君は考えられるの?」
「監視カメラと警備員を増やせば――!」
「どうやって?」
「どうって……」
銀河と言い合っていた委員がとうとう戸惑った様子で口篭もる。こう聞かれるということは、単純に金で解決する問題ではないのだろう、と言うことを悟ったようだ。
銀河はその委員から目を逸らし、全委員達を見渡すように前を見据える。
「みんな、聞いて」
そこで、少し申し訳ない表情になる。
「残念ながら、雑木林以上の監視カメラ、警備員を雇う予算はもうこの委員会にない」
銀河が予想した通り、皆がざわつく。
「それなら委員達からの寄付でどうにかなるのでは?」
前の方の委員から声が上がる。
銀河はかぶりを振った。
「それはできないよ」
何故ですか、と苛立った様子で委員が言う。
銀河は隣りに座る副委員長を見る。
「以前図書委員会が第三図書館を寄付金で増築しようとしたのですが、生徒会の妨害に遭い――」
「どうなったかは、あの第三図書館を見れば予想がつくだろ?」
皆、口を閉ざしてしまった。気まずい沈黙が流れる。
ならば、どうやって茸を護れば良いのだ。
敵は、かけがえのない茸をこともあろうに踏み潰すような
残酷な奴らなのに――!!
皆の心の叫びが聞こえたのだろうか。
ふう、と銀河はため息をついた。
「温室と茸栽培地に、罠をしかけようと思うんだ」
委員長の言葉に、小さなざわめきがまた委員たちの間で広がる。
「温室にも、ですか?」
副委員長が怪訝そうな顔をする。
既に温室の周りには委員達の手によって落とし穴が巡らされている。飼育栽培委員会のみが持つ『落とし穴マップ』がなければ、あの温室に入るのは難しい。
その上更に、となると――委員長にこんなこと言いたくないが――鬼畜ではないか。
しかし銀河は、
「そうだよ」
と事も無げに言った。
白い悪魔の笑み(通称)を浮かべた顔に、委員達は寒気を覚えた。
Copyright (c) 2005-2007 橘学園生徒会. All Rights Reserverd.