『茸 ヲ 撲 滅 セ ヨ』
校舎の北側にある雑木林は、緑化委員会と飼育栽培委員会の聖地とも謳われるほど、広大な面積と豊富な種類の生物を保有している。
直径100メートルほどの小さな湖を取り巻くように広がっているその林は、通常緑化委員会の管理下に置かれているが、ある一部分だけその緑化委員会の手が行き届かない場所があった。
飼育栽培委員会管理の、茸栽培地。
そこは常に異様とも言えるほどの警備体勢を取っている、学園内の密かな肝試しスポットだった。
監視カメラ30台、元自衛隊隊員の腕利き警備員を20人ほど配備。僅か十平米の面積にしては厳重すぎる。
その上、飼育栽培委員が朝、昼、夕方と毎日3回見回りを欠かさず行っている。
彼らに休日などない。が、それに文句を言う者もなかった。護りたいものがある人間は、得てして強くなれるのだ。
何者にも屈しない――そう、学園内で実質最高権力を持っている生徒会にさえ屈しない――強い精神力で、彼らは繋ぎあっていた。
茸を、護る為に。
第一発見者は、2−B飼育栽培委員会の三原だった。
昼の巡回をするために林に入り、栽培地が目に入ったところで異変に気付いた。
監視カメラが、落ちていたのだ。
綺麗にネックの部分から折られている。いや、この傷跡は――弾痕?
慌てて周りを見てみると、見える範囲の監視カメラは全て撃ち落とされている。
この様子だと、設置している監視カメラは全て破壊されている可能性が大きい。
そんな馬鹿な。警備員はどうした?
疑問を抱きつつ栽培地に足を踏み入れ、息を飲んだ。
目と鼻を真っ赤に腫らし、頭に打撲の痕を作りながらぐったりしている警備員達など眼中にない。
三原の視線は、一番手前にあった一本の木に縫い止められた。
無惨にも手で引き千切られた茸。踏み躙られたのか、地面のそこらに残骸がある。
そして、茸を毟った木にナイフで止められた一枚の紙。
新聞の文字を切り抜き、それらを貼り付けて作ったらしい不気味な文章は、こんな書き出しで始まっていた。
『警告 飼育栽培委員会殿』
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