「なんだって!?」
慌てて中桐は千紘と蜜仔に連絡をとった。
「千紘か?すまない、会長を見失った。」
クソッ、まさか見失うなんて初歩的なミスをするなんて!
しかし、焦る中桐とは反対に千紘は冷静だった。3人を信用していないわけではなかったが、念には念をとあらかじめ会長の行動パターンを調査、推測していたのだ。
流石にデートコースすべては調査できなかったが、会長は事前に何軒かの店を下見していたようで普段の会長の嗜好なども考慮して推測した結果ある程度の予測がついていたのだ。
「どのあたりで見失ったの?」
千紘が尋ねると中桐が早口に答えた。
「アンティークショップを少し進んだあたりだ。」
『シモーヌ』の次に会長が向かうのは宝石店の『ジュエリーヒスイ』だね。
手元の予測表を見ながら千紘は考えた。ふと千紘は一週間ほどまえの悠梨との会話を思い出していた―――――
「ただいまぁ〜」
放課後もほとんど終わりかけた頃に原がグッタリとした様子で生徒会室に戻ってきた。顔には大きく『疲れた』と書いてあるのが千紘には見て取れた。
「大変だったね悠梨ちゃん」
ほんとにね、と力なく原が答える。
卒業もせまり生徒会の受け継ぎや梶原との戦いの後始末やと何かと忙しく仕事をしていた午後、原は突然会長に街へと連れ出されたのだ。
「悠梨さん、少し買い物に付き合ってもらえる?」
会長から直々の御指名となれば無論、原に拒否権などはない。
街へとでた会長は当初予定していた買い物はどうなったのやら、あちこちの店を見て回っていた。
なんだろ?これじゃなんかの下見みたいだけど。
原が訝っているのなど会長はお構いなしに
「やっぱりここは…、でもあの店も……」
などとぶつぶつ呟きながら店を吟味していたらしい。
「でも珍しいね、会長が自分で街に行くなんて。」
いつもは他の人にまかせてるのに、と話しを聞いた千紘は呟いた。
「そうだね…」
何故だかいつも以上に疲れている様子の原に千紘は違和感を感じた。
会長に振り回されるのは何時ものことなのに、なんでこんなにグッタリしてるんだろう?
不思議に思った千紘が原に尋ねてみると原は思い出したくもないといった表情で話し始めた。
「何軒か会長に連れられて店に行ったんだけど…、特にひどかったのは『イクティ』と『ジュエリーヒスイ』に行ったときだったかな…」
『イクティ』とは会長お気に入りのファッションブティックで女性向けの服だけでなく男性向けの服も充実している高級ブティックである。
「だって会長ったら『イクティ』では代わる代わる服を持ってきて、“きっとこれは小林先生に似合うでしょ″とか“これだと先生の魅力がより引き立つわね″とか背筋が寒くなるようなことばっかり言うんだもん!!」
ほとんど悲鳴に近い声で原が絶叫した。
どうやら『ジュエリーヒスイ』のときも同じようなものだったらしい。
なるほど…、ようは会長のノロケに付き合わされたんだ…。
理由をしって千紘は納得した。会長とコバセンの恋愛ドラマは昼メロよりも濃いのだ。
「お疲れ様…」
心の底から原に同情た千紘だった―――――
「? おい、千紘どうした?」
突然返答がなくなったので不振に思った中桐の声が携帯から聞こえて来た。
「あっ、ごめん、なんでもないよ。会長が次に行くのは宝石店の『ジュエリーヒスイ』だと思うよ。」
わかった、すぐに行くと電話を切ろうとした中桐に千紘は一言「気をつけて」とだけ呟いた。
だが、すでに切れていた電話の向こうからはツー、ツー、と規則正しい機械音が虚しく聞こえてくるだけだった。
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