「こちらAチーム…。只今、会長はアンティークショップ『シモーヌ』のショーケース前」

中桐は電柱の影に隠れながら電子小型無線に向かい何かをしゃべりかけている。
身を隠すように電柱に背を向けチラチラと視線を動かしている。
その隣には、ハニーと森本も身を潜めていた。



200X年12月23日(金曜日・休日)。
クリスマス・イヴ一日前の今日のこの日。
十貴族の半分はクリスマス一色の町に繰り出していた。
いや、仕事…と言うのが本当なのだが。
数日前、会長はこの日に出かけることを中桐に告げた。
『23日はちょと用事ができたの、だから私は欠席するわね』
卒業を約2ヶ月前に控えたこの日。
皆、受験の最中…にもかかわらず生徒会室に集まる事になっていた。
なぜなら、梶原との決戦後の後始末をすませるためだった。
近いうち、生徒会から来年の学園の運営を執行部に移行することになっている。
そのためにもさっさと自分たちの不始末はしてしまわなければならない、という事で23日は集まることになったのだ。
だが、もっとも必要な会長が欠席。
それぞれ納得がいくはずが無い。
壁龍は会長の身辺調査(ばれたら殺されたかもしれない)をしてみたところあることに気づく。
その日の予定…ある人物とかぶっていたのだ。
その人物とは…橘学園体育教員・小林先生…通称・コバセン。
そう、会長の秘密の恋人…―というか浮気相手である―
もちろん、そうなればデートであるのは目に見えている。
それを知った西原はこういった。
『邪魔をするか…』
その微笑みは誰もが背筋を凍らすものであった。
だが、ここは十貴族。面白そうなネタには乗るのが流儀だ。
もちろん、満場一致で皆賛成。
しかし、全員が出払ってしまえば仕事が残ってしまう。
そこは仕方なく、あみだで公平に残るメンバーと出払うメンバーを決めたのだった。


「中桐さん…会長とコバセンが移動し始めたよ!!」


少しの間、目をそらしていた中桐をサポートするかの様にハニーが指差す。
その先には会長とコバセンが腕を組み歩き出していた。

「こちら、再び尾行します」
『了解』


三人は隠れていた電柱の陰から姿を現して2人の後を追う。




今日の三人の尾行コンセプトは『林風☆彼氏のためにプレゼントを買う彼女』らしい。

見た感じは普通の女子高校生だ。
だが、林から言わせると何かが違う、らしい。
まぁ、他のメンバーにはさっぱりわからないのだが。

「これはいつまで続けるんでしょうか?」
「さぁ? 邪魔したらでしょ?? 早く帰ってもやし炒めが食べたいよぉ」
「二人とも、私語は慎め。ばれたら私たちは…」



中桐はふっとある言葉を口にしようとしてとめた。
今までに何度も見てきた光景…とくに、会長とは付き合いの長い中桐はその悲惨さを知っているからだ。
ハニーと森本はそれに気づき口を閉じた。
それは触れてはならない橘の秘密である。


++++++++


カタカタカタカタカタっ


高速スピードで千紘の指が動く。
それを横目に見ながら蜜仔は大林に『移動開始』と告げた。
大林、蜜仔の両名も会長の妨害にまわされた二人である。

「じゃぁ、次のポイントのトラップにとりかかるね」
「わかった。こちらBチーム、次のトラップに移行します」


二人は3人とは異なり、薄暗い車の中で待機している。
もちろん、二人も少しずつ移動し会長の後を尾行しているのは抜かりない。
運転役は西原の使用人ジョナサン(本編41話参照)が引き受けてくれた。
大林はあらかじめ準備していたデータを少しずつ書き加えて新しいものにて、妨害にかかる。
蜜仔はそのサポートと単独行動をしやすくするためにこちら側に回された。
本来、単独行動は森本が一番の適任だったが会長の言葉が絶対の森本である。
もしかしたら、を考えそして少しでもメンバーと打ち解ければと考えた原の案であった。


「でも、皆こういうことにかけては情熱的だよね」
「そういう千紘もやるきじゃん」
「だって、にっしーが脅すんだもん」

『くしゅん…』
『あれ、西原先輩風邪ですか?』
『いや、多分今のは千紘だな』
『えっ?』



「な、なんか今悪寒が…」


大林は背中をブルブルと震わせた。
嫌な予感がするがここは気にせず行こう。
大林は心に決めた。。


++++++++


「次のトラップは…」
「会長の親衛隊が邪魔する…ことになっているはず、です」


中桐の問いに森本が小さく答えた。
十貴族にはそれぞれ親衛隊がある。
その中でも会長の親衛隊はかなりの人数を要している。
それも、珍しく男女ともに半々の割合だ。

「えぇ狽「いの!!? コバセンとの浮気、ばれないの!!?」

そう、会長とコバセンはいわゆる浮気の仲になる。
十貴族しか知らないそれは、もちろん秘密事項。
そんな事ばれたら、友正が自殺する可能性だってある。
奴はそういう人間だ。
『恵美は僕のことはどうだっていいんだね!!?』
とか、言いながら首をつりそうで怖い。
因みに、ギルもそのタイプであろう。

「大丈夫だ。親衛隊メンバーには小林先生にクリスマスに友正に渡すプレゼントをナニにしたらいいかわからないので選んでもらう・・・ということにしてある。」
「それで、良く引き受けてくれたね」
「憧れの会長と話せるんだ…理由など聞く必要性がないだろ?」
「あぁ、そうか」


ハニーは腕をぽんとたたき納得した。
確かに、憧れの人直接しゃべれるのだ。
別に、色々と探索する必要はない。

「あの…」
「「??」」


中桐とハニーが二人で会話する中で、急に森本が口を挟んできた。
二人は何事だ? っと顔を森本の方に向ける。
すると森本は顔を青くしていた。

「会長を見失いました」



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