倒れ行く人々
 飛び散る豆
 なんでこんな事になっちゃったんだろう……

 そう、去年の最強の悪夢。今思い出しただけでも体が震える。あれは、去年の節分。
 3年が引退後、新しく入って来たメンバーとの交流を深める為に、会長はふっとある提案を上げてきた。





「豆まきしましょ!」
 嬉しいそうに微笑む彼女だが、その一方で中桐と藤岡は額に汗を浮かべていた。
 なにか、嫌な予感がする。彼女の唐突な提案は今までの経験上、余り好ましいものでは無いことが多かった。とくに二人は付き合いが長い分、よりそう言った事に関して勘が働いた。
「ギルティと友正さんを呼びましょ! あとは執行部の部長になった片平萌さんも! 悠梨さん呼んでちょうだい」
「はい、わかりました」

 すると原は直ぐ様行動に移る。ギルは何時もの用に千紘を待つためドアの外に待機している。
 後の二人も放送で呼び出せば直ぐに集まるだろう。悠梨がギルを呼びに行ったその間に会長は携帯を取り出し電話をかけはじめた。
「あっ、じぃや? 第三体育館に豆を運んでちょうだい。……なるべく多くね。……そう、お願い」
 嬉しそうに笑う会長は電話を切ると皆にその笑顔を向けた。
「じゃぁ、体育館に行きましょ」
 誰かが唾を飲み込む音が鮮明に響き渡った。





「さぁ、始めましょ」
 掌を合わせヤル気満々で喋りかける会長。
「チームは今決めたとおりで、ルールの方は……そうね……全滅して行ったところから負けね。あとは、付属品として投げる時は必ず『鬼は外』って言いましょ。もし、言い忘れた場合罰ゲームがあるからww」
 体育館じゅうにしきつめられた色々な豆! 豆! 豆!!
 そのせいで体育館の床が見えることはなかった。気を緩めば埋もれてしまう……そう言う域だ。
「じぃや」
「はいお嬢様」

 二階席にはじぃやが審判として立っている。彼の気分しだいで試合(?)は大きく左右されるのだ。
 因みに、チーム編成だが4人づつの3チーム。
 会長、友正、蜜仔、中桐
 西原、原、千紘、ギルティ
 藤岡、林、ハニー、片平
 こういったチーム分けになった。
 一応はクジで正当に分けのだが、なぜか婚約者組みは同じチームに入っていたりするが、そこはあえて気にしないでおこう……。

「よーぃ、初め……!!」
 じぃやの合図とともにいっせいに皆動き始める。
 それぞれかく持ち場に配置するのだ。一応事前に陣地確保を行い、ダンボールといった脆く弱いもので壁は作った。
 移動範囲は制限されるがなよりはあった方がいい……。
 こんな無造作に豆が飛びかう中突進してくるような人間はいないだろうから。

「千紘……どっちのメンバーが手ごわい?」
「多分、藤岡さんの方……。ハニーちゃんがいるから……豆の飛び交う音を完治して避けてくると思うよ」
「そうか……」

 西原は此方の戦力を見て額に汗を浮かべる……。
 なんでこうも使えない連中ばかりが……。ブッチャけまじで困り果てる西原である。
「千紘、私たちが勝てる確率は?」
「多く見積もっても30%……」

 その答えを聞いて西原は大きくため息を付いた。
 西原的美学では、勝利は盛大に勝ちたい。そのため、完璧なる勝利を目指すのだが……流石にこのメンバーでは無理だ。
 まだ、藤岡か中桐、蜜仔の誰かでも居ればよかったのだが……。
「悠梨」
「ななななななに? にっしー」

 西原は先ほどから千紘の後ろで抱きついて彼女を豆から守ろうそしているギルに目を向ける一方で、一人孤立してダンボールの影に隠れている悠梨に声を投げかける。
 彼女は酷く怯えており仕方ないとばかりに、西原は体を一回転させ彼女のいるダンボールの影まで移動した。
「ギルの使い道はあるか?」
「えっ??」

 千紘に目を向ければ嫌でも目に付く微妙なこの男……。先に始末してしまうか……??
 いや……使えるものは使うべきだ。この男にだって使い道くらい少しはあるはず。
 まぁ、無ければないで西原は十分に構わなかった。
「奴の使い道だ。あんな風に千紘を守ってるだけでも邪魔だしな」
「アァ……そうですね」

 悠梨も否定はしない。どうやら思っていることは皆同じなのだ。
「っで?」
「……攻撃段階で、囮になって貰うのが一番役に立つと思いますけど……。あとは友正様を道連れにでもしますか」
「はっ?」
「彼にうろつかれても困るんじゃないですか?」

 先ほどまでの動揺とは打って変わって、少し冷静な口調に戻った。
 あまり、その術を披露しないものの彼女は一応参謀である。こう言った場での彼女の思考はかなり役に立つのだ。
「そうだな……」
 そんな中会長のチームと藤岡達のチームが豆を投げ始める。口々に「鬼は外!!」と叫びながら。
 女子高生がそんな事していいの!!? なんて言えるわけがないのだが……。
「仕方ない……このダンボールが壊される前に私たちも反撃だ」





『ピピッー』
 そこで無残にもじいゃの笛の音が鳴った。
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